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16話 貴族の令嬢として、ブロッサムの凛とした別れの挨拶

Author: みみっく
last update publish date: 2026-01-01 06:00:29

 翌日の朝、ブロッサムは皆に別れの挨拶を終えた。エルやフィオが名残惜しそうに手を振る中、そらはブロッサムに指定された、彼女の実家の近くの目立たない場所まで送り届けた。

「色々と世話になりました」

 ブロッサムは貴族の令嬢らしく、背筋を伸ばして丁寧に頭を下げた。その表情には寂しさと感謝が入り混じっていた。

「こっちも色々とありがとうね。いつでも連絡してね」

 そらが優しく声をかけた。

 二人の会話が終わるか終わらないかのうちに、近くにいた門兵にブロッサムの姿が気づかれ、たちまち大騒ぎになってきた。門兵たちが驚きと喜びに満ちた声を上げながら、こちらへ向かってくる。

 騒動に巻き込まれるのを避けるため、そらはブロッサムと最後の挨拶を終え、慌ててキャンプ地に転移で戻ってきた。

 まあ、転移もあるし、すぐに会えるし、魔法通信もあるから、いつでも連絡できる。そらは再会を楽しみに、心の中でそう締めくくった。

♢罠の成果と複雑な感情

 そらはフィオをエルとアリアに任せて、ティナと一緒に昨日仕掛けた罠を見に行った。フィオたちは朝から川で水遊びを再開している。

(おっ!! イノシシっぽいのがかかっていた。猪のような感じだけど、イノシシより大きく、体毛は黒く太く硬そうで凶暴そうな目つきだ。魔力も感じられるので、魔獣のイノシシかな?)

 重厚な罠の強化されたローブがギチギチと音を立てるほど、獲物は暴れていた。

「凄いですね。本当に捕れると思ってなかったです」

 ティナが驚いたような声を上げた。その瞳は獲物の大きさに、見開かれている。疑っていたのですね、ティナさん。実はそらも捕獲に自信がなかったんだけどね。そらは心の中でそう呟き、頬を緩ませた。

 次の罠の確認に行く時、足場の悪い山道でティナがバランスを崩し、転びそうになった。そらは咄嗟に彼女の身体を支えようと腕を伸ばしたが、勢いのまま、柔らかいティナの胸に触れてしまった。

「きゃっ」

 ティナの短い悲鳴が響く。

 うわ、不味い!! ティナの変なスイッチが入ってしまう。そらは慌てて、何もなかったことにして何食わぬ顔で先に進む。事故だし……そらは転びそうだったから助けただけだよ!と心の中で必死に言い訳した。

 ティナは少し照れたように頬を染めていたが、次の瞬間、真剣な眼差しでそらを見つめてきた。

「転んでしまうので、手を繋いでも良いですかぁ……?」

 語尾に少し甘えが混じっている。そりゃ山道だし仕方ないか……。そらは理性を保とうと努める。

「そうだね……危ないからね、手を繋ごうか」

 お互いに少し恥ずかしそうに手を繋ぎ、そのまま連れ立って、別の罠が仕掛けてある場所へ辿り着いた。

 そこには、狙い通り、鹿がかかっていたが、どうやら一箇所だけ、鹿の力で罠を破壊されて逃げられていたようだった。そして、鳥の罠の方は3匹捕獲に成功し、一箇所は逃げられ、もう一箇所は罠が作動もしていなかったようで失敗だった。捕れたのは鳩のような鳥と、野生のニワトリのような鳥が2匹だった。

 罠を見て回る時がワクワク、ドキドキして楽しいし、改良するのを考えるのも楽しいよね。そらは自然と顔が緩む。しかも今回はイノシシや鹿、鳥と大量だったので、さらに楽しかった。思わず、繋いだティナの手を軽く握りしめる。ティナは別の種類の「ドキドキ」と「ワクワク」を満喫して楽しんでたみたいだけど、そらはその熱を感じながらも、理性を保とうと努めた。

 ティナの好意は嬉しいけれど……。自分が、またこの世界から消えて元の世界に戻るかもしれないし、それでティナが悲しむのが辛いんだよね。そらは繋いだティナの手から伝わる温もりに一瞬の幸福を感じながらも、心の奥に潜む、未来への不安と葛藤を抱いていた。

(しかし、獲物の捕りすぎは良くないので、次回は罠の数を減らそうかな)

 そらは、そう思案しながら、本日は鳥の罠を五箇所、獣用を三箇所に仕掛けておいた。この自給自足のキャンプ生活が、困難を伴いつつも、日々を生きているという実感を伴い、彼はどんどん好きになってきていた。

 朝捕れたばかりの新鮮な鳥を解体し、丁寧に塩を振りかけて串に刺し、焚き火の上でじっくりと丸焼きにした。黄金色に焼けた肉を皆に分けて昼食として食べてみると、これが驚くほど美味しかった。噛むたびに溢れる肉汁と香ばしい皮の香りが口いっぱいに広がる。この世界の食材が安全に食べられることも分かり、そらには新たな楽しみができていた。

 ステフの料理の腕も、このキャンプ生活を通じて確実に上がっていた。彼女が作ってくれた野菜たっぷりのスープは滋味深く、肉と野菜の炒め物も、素材の味が最大限に引き出されていて最高に美味い。これは、彼が知る日本でいう手軽なキャンプ飯とは明らかに一線を画する、本格的な料理だった。

 一方、フィオが捕まえた新鮮な魚は、いつでも完璧な鮮度が保たれる食材保管庫に入れてあるので、傷む心配は全くない。それを夜の食事のメインに据えることにした。しばらくは、新鮮な食材に困ることはなさそうだ。皆の表情も明るく、そらは満足感に満たされていた。

 昼食後、まだ遊び足りない様子のエルとアリアとフィオが、広場で何やら楽しそうに集まっていた。どうやら「討伐ごっこ」を始めるらしい。

 フィオが俺(そら)役で、アリアがティナ役、そしてエルが魔物役という配役になったようだ。その配役を聞いた瞬間、そらは思わず目を丸くした。

 戦闘開始の合図もないまま、エルが魔物役としてフィオに容赦なく襲いかかった。エルは素早い動きでフィオ(そら役)を捕まえると、その小さな身体を軽々と抱き抱えた。そして、エルの顔がフィオの頬に近づき、チュッと音を立ててキスを落とした。

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